青函連絡船出航時の船橋機器操作要領③(出航)

 今回は船長が「長声一発」とオーダーをしたところから解説していきたいと思います。この「長声一発」のオーダーで汽笛を鳴らしますが、連絡船ではこの汽笛を鳴らした時間を出航時刻として記録していました。

 船長が「長声一発」と指示したら航海係が「長声一発・サー」とアンサーバックして汽笛を鳴らします。長声の汽笛は5秒鳴らします。ここだけ三等航海士の操作ではありません、航海係の仕事です。

 三等航海士は時刻を確認して「出航定時でした」または「出航定時・サー」と報告します。1分以上前後した時は「1分延」「1分早」と報告していたと思いますが、10秒程度の前後は定時と報告していたと記憶します。時計はこの手元にある写真の時計でも構いませんし、前方上側にも時計がありますのでどちらの時計を見ても構いません。

 ちなみに船舶内では時計は電気で動いていますが、電池を使った同じ見た目の市販品が「防塵時計」という名称で販売されています。我が家でも連絡船終航の時に買いましたが、まだ使えてます。なかなかタフな時計です。


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 函館発は出航と同時に船を右に振って桟橋と直角に進んで行きますので、船長の最初のオーダーは「バウ・ライト」でした。バウスラスターのハンドルを右15度に設定します。少し遅れて前側の指示器も15度を指し示します。

 この時点では後ろ側のプロペラはまだ作用していませんが、バウスラスターが動くと船の前方が右側に振れていきます。船が少しずつ岸壁から離れていよいよ函館桟橋を後にします。

 ここで一点注意点はこのレバーは普通に回しても動きません。手前側のボタン赤矢印部分を掌で押してあげるとロックが解除されますので、握ったままグイッと回します。

 函館発では約15秒後に「スローアヘッド・ポート」と船長からオーダーが入りますので、「スローアヘッド・ポート」と復唱して左舷側の可変ピッチプロペラをS▶と書かれた7度の位置に持っていきます。そして操作が終わったら「スローアヘッド・ポート・サー」と報告します。

 次に「スローアヘッド・スターボード」とオーダーが入りますので「スローアヘッド・スターボード」と復唱して今度は右舷側の可変ピッチプロペラをS▶と書かれた7度の位置に持っていきます。ここで注意点は現時点で両舷共「スローアヘッド」になったので「スローアヘッド・ツーエンジン・サー」と報告します。「スローアヘッド・スターボード・サー」ではないのです。

 そして青森発では船はほぼまっすぐに出ていきますので、バウスラスターは使わず長声一発のあとにくるオーダーは「スローアヘッド・ツーエンジン」です。

 その後は船長指示によりハーフ・アヘッド(9.5度)、フル・アヘッド(12度)とピッチを上げていきます。それにより船の速度も上がってきます。そして「フル・アヘッド」のあとは「翼角15度」の様に角度でオーダーが来ます。15度、18度、20度と翼角を上げていきます。

 特に12度から15度に上げる時は、途中に共振する域があり船に不快な振動をもたらす為、手際よく翼角を上げる様注意が払われていました。

 この可変ピッチプロペラ操縦装置は写真の様に上のボタンを押すと前後にスライド出来る様になります。

 また私が指で押さえている部分を回すとレバーをゆっくり動かすことが出来ますので、角度の微調整が出来ます。上のボタンを押してサッとレバーを動かして、つまみを回して微調整をする様な方法で角度をセットしていました。

 次回は最終回としてリングアップエンジンまでと三等航海士の機器操作と並行して行われているお仕事について解説していきたいと思います。


青函連絡船物語

 この操作要領は現役時代に自分で見たものに加え、連絡船OBから見聞きしたことを中心に書いていますが、大神 隆氏の「青函連絡船物語」が大変参考になりました。35年前一つ一つの動作は見ていても、当時は何故その様に操作しなければならないのかの検証は抜けていました。

 この本は私の「点」の知識を一本の「線」に変えてくれる有用な一冊でした。青函連絡船に興味のある方なら、読んでおいて絶対損は無い一冊だと思います。


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