青函連絡船出航時の船橋機器操作要領②(1分前)
前回に続いて青函連絡船出港時の機器操作要領を三等航海士目線で追っていきたいと思います。今回は出航1分前から出航直前までをお送り致します。
まずは1分前の操作要領を解説する前に出航時の配置について書いておきます。出航時は艫(とも)に二等航海士、艏(おもて)に一等航海士が配置に就きます。写真は出航後暫くしての写真なのでヘルメットを被っている二等航海士が戻ってきたシーンですが、出航1分前のタイミングでは二等航海士は船の最後尾に居ます。
中央の舵を握っているのが航海係と呼ばれていた操舵手、その左が三等航海士で今回説明している機器はこの三等航海士の前にあります。そしてヘルメット奥に見える制帽が船長ですが、出航前~出航直後は左舷後方を見ていますが、その後写真の様に前方を見ながら操船の指示を出していきます。
出航1分前になったら三等航海士は「出航1分前です。」と船長に報告します。そうすると船長は「はい」と答えてくれます。
そして約30秒前になりましたら船長が「スタンバイエンジン」と指示を出してきますので、「スタンバイエンジン」と復唱して「STAND BY」のボタンを押下します。ブザーが鳴って機関部に伝わるのは「DRIVE PROPELLER」と同様です。
ブザーが鳴リ止んで「スタンバイエンジン・サー」と報告すると船長は「はい」と返答してくれます。
船舶の場合原則船長が「スタンバイエンジン」などと指示をした時、まず同じ言葉で「スタンバイエンジン」と復唱します。そして機器操作を実施して、操作が終わったら最後に「サー」を付けて「スタンバイエンジン・サー」と報告します。その報告に船長は「はい」と答えます。これを繰り返していきます。
続いて「レッコー・ショアライン」と船長が指示を出してきます。「レッコ-・ショアライン」と復唱してエンジンテレグラフ右側のマイクを使って一等航海士に「レッコー・ショアライン」と伝えます。艫の二等航海士にはテレグラフを使用して指示を出します。ドッキングテレグラフの中央の針を「LET GO」に持っていきます。
この様に艏の一等航海士とはマイクで、艫の二等航海士とはテレグラフで連絡を取り合います。
艫の二等航海士が配置される場所にもテレグラフが立っていますが、表示は船橋と同一で連動する様な構造となっています。
「レッコー・ショアライン」の号令がかかると一等航海士がもやいの巻き揚げ指示で笛を吹くのが船首でも聞こえます。またもやいを巻き上げるウインチの音が鳴り響きますから「いよいよ出航するんだな」と言う雰囲気になります。
そしてもやいが岸壁から外されると一等航海士がマイクで「艏オールクリア・サー」と伝えてきます。二等航海士はテレグラフを「ALL CLEAR」に合わせてきます。これで全てのもやいが放たれ、船は出航できるようになります。
三等航海士は船長に対し「艫、艏クリアです」と報告します。スタンバイエンジンからここまで時間にして約30秒、そして船長が「長声一発」と指示を出せば出航です。次回は「長声一発」から先を解説します。
この操作要領は現役時代に自分で見たものに加え、連絡船OBから見聞きしたことを中心に書いていますが、大神 隆氏の「青函連絡船物語」が大変参考になりました。35年前一つ一つの動作は見ていても、当時は何故その様に操作しなければならないのかの検証は抜けていました。
この本は私の「点」の知識を一本の「線」に変えてくれる有用な一冊でした。青函連絡船に興味のある方なら、読んでおいて絶対損は無い一冊だと思います。
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