青函連絡船出航時の船橋機器操作要領①(5分前)
青函連絡船津軽丸型の出港時の機器操作要領ですが、結構話すと長くなりそうなので数回に分けて三等航海士目線で解説していきたいと思います。なお船橋の写真は原則函館に係留されている摩周丸で撮影していますが、一部青森の八甲田丸で撮影した写真も含まれます。
現役当時私は学生で何度か船橋を見学する機会を得たのですが、時間が経っていることと、職務でやっていた訳ではないので間違いがあるかもしれません。間違いなど気付いたことがあればTwitterででも教えて頂けると幸いです。終航から35年、後世に正しい情報を残していきたいと思っていますので。
■ 出航5分前
連絡船の出航作業は5分前位から忙しくなってきます。船の外で言えばだいたいそれ位迄に貨車航送用可動橋が上がります。乗客用のタラップも順次外され、駆け込みのお客様の為の1本のみを残した状態となります。
そして船を繋ぎ止めているもやい(ロープ)も艫(とも)、艏(おもて)1本を残して巻き揚げます。このいつでも出航出来る状態をシングルアップと呼びます。
本来なら手の右側にマイクがありますので、マイクに向かって「出航5分前、エンジンドライブします」と艏の一等航海士にアナウンスします。「了解、艏出港準備よろし」の返答が来たらエンジンテレグラフの「DRIVE PROPELLER」のボタンを押します。
なお旅客船は出航5分前ですが、貨物船は10分前にドライブプロペラとなります。貨物船は燃料節約の為に5分前に出航する慣習がありましたので、5分前の5分前ということで定刻の10分前にドライブプロペラ、5分前に出航としていました。
エンジンテレグラフは機関室の総括制御盤にも全く同形状のものがあります。船橋でボタンを押すとブザー音と共に同じ場所が光ります。これを見て機関部員がプロペラを動かします。
青函連絡船は可変ピッチプロペラを採用していますので、プロペラを回しても翼角を0度にしておけば水の中で空回りしているだけなので、船は動きません。(この写真は八甲田丸機関室)
次にバウスラスターもドライブしますが、出航約10分前にポンプ運転としていますので、そこから運転側に捻ります。バウスラスターの推力は後ろ側のスクリューのプロペラから取っていましたので、プロペラの回転計が上がってから動かします。だいたいドライブプロペラーから2分経つと既定回転となります。
これで出航する準備は整いました。出航1分前から再び慌ただしくなりますので、次回はその辺を解説していきたいと思います。
この操作要領は現役時代に自分で見たものに加え、連絡船OBから見聞きしたことを中心に書いていますが、大神 隆氏の「青函連絡船物語」が大変参考になりました。35年前一つ一つの動作は見ていても、当時は何故その様に操作しなければならないのかの検証は抜けていました。
この本は私の「点」の知識を一本の「線」に変えてくれる有用な一冊でした。青函連絡船に興味のある方なら、読んでおいて絶対損は無い一冊だと思います。
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